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途轍もない酷暑だった夏が、いつまでどこまで尾を引くのだろうかと。九月に入ってもなかなか涼しくならない日々に、いい加減にしてよとうんざりしていたのも半月ほど。西の方では、昼間日中はまだまだ 30℃を越す蒸し暑い地域もあるようだが、それでも朝晩は用心しないとくしゃみが出そうなほど涼やかな風がそよぐほどにもなっており。せっかくの三連休ですもの、いいお日和になってよかったわねぇと。うんざりするほどではなくなった陽射しを街路樹の梢越しに見上げ、髪をくすぐる風の中、笑いさざめきつつ颯爽と歩く女性たちが何とも華やか。整備された石畳の歩道に沿った、石づくりの壁やきざはしが陽に白く晒された上へ。夏の名残りの茂みがしたたらす濃緑が、藍色の日陰を落としながらこちらへどうぞと誘(いざな)う先には。官庁や大使館を抱えたスタイリッシュな大人の街・M区の明日を代表するとさえ評されている、ホテルJが佇んでおり。モダンなところもさりげなく取り入れながら、されど、正統派の風格ある存在感を決して崩さぬその姿は凛としていて美しく。殊に、背後をゆったりと流れる大川の最も優美な眺望を得てのこと、春は桜、夏は花火、秋は錦景という日本の四季の彩りを都心に居ながらにして堪能出来るため、外国からの訪日客にも人気が高い。館内には、手厚いサービスが行き届いた居心地のいい宿泊施設とそれから、眺望が自慢の最上階にはシックなラウンジや空中庭園も整っており。また、結婚式用のチャペルも完備していて、豪奢な大広間には先進の音響システムが装備され、門出を祝う披露宴に夢のような華やぎを添える。芸能人や著名人が数多く挙式したことでも有名で、そんなホテルとしても広く知られているとはいえ、
「……あ、見て見て。」
「わあvv」
実際にすぐ目の前へ、淡雪のような白を基調とした華やかな花嫁衣装をまとった存在が、ライスシャワーや祝福の歓声浴びて現れたなら。そこはやはり、思わぬサプライズとして捉えてのこと、おおと ときめきつつ視線を奪われてしまうに違いなく。
「綺麗ねぇvv」
「ホントねぇvv」
淡いオーガンジーの重なりが、深みのある白を構成し、細腰に幾重にもまとわることでふわりとしたボリュームを持たせる。銀色のティアラで押さえられたヴェールが、秋の透き通った風になびいて、花嫁の白い顔容の輪郭だけを霞の中から浮かび上がらせる。特に奇を衒った代物じゃあない、むしろ素材もデザインもシンプルな、いかにもオーソドックスなドレスとヴェールの取り合わせだのに。それでも ほうと、見る人の心を蕩けさせるほど魅惑的なのは、それをまとった存在が魅せ方を心得ていたからで。つんと気取っていたり、わざとらしくも立ちポーズを決める訳でもないけれど。目線の流し方、顔を上げながらほんのりと頬笑んで見せるタイミング。そうかと思や、その腕を杖のように頼って掴まっている新郎の肩へ、頬を触れさせる含羞みの仕草とか。何げない所作動作がどれもこれも絶妙なので。何て可憐な花嫁だろかと、見る人が視線を外せない。
「まるでモデルさんみたいvv」
ほっそりとした腕には、白やベビーイエローのバラとガーベラを取り混ぜたブーケ。レースでくるみ、サテンのリボンで束ねたそれを、振り返りざま誰へともなく高々と放れば。通りすがりのOLだろか、特に礼服でもないカジュアルな着こなしの女性の腕へぽそんと飛び込み、周囲がどっと華やかに沸いた。周囲はともかく、知り合いでも関係者でもないのにいいのかしらと、慌てたらしいOLさんだったけれど。ぎりぎりこちらを見やってた花嫁の口許が、それはあでやかな笑みを浮かべたままだったのと、
「荷物でなければお持ちくださいな。」
傍らから掛けられた声があり。伸びやかな声の主は、濃色のテーラーズスーツを小粋に着こなした男性で、かっちりとした肩口や頼もしそうな胸板が、仕立てのいいスーツに引けをとらない鷹揚さを醸しており。にこりと微笑んだ口許には、誠実さとロマンチックな甘さとが同居する、なかなかの二枚目だったりしたのだが。そんないで立ちだということは花婿かしらと周囲が勘ぐるより先に、その手へ握っておいでのブツをさっと引っ張り上げると、
「こちら“M区 de おさんぽ”のレポーター、ミスターMです。
本日はホテルJの前から、記念すべき第1回の放送をお届けしておりますが。」
そりゃあ溌剌と、滑舌もよく喋り始めた彼を、少し大きめのハンディカメラでカメラマンが一人で撮影しており。どうやらケーブルテレビか何かの、リポート担当のインタビューアーであったらしく、
「幸先がいいですね。
どうやらたった今 結婚式を挙げられたばかりというカップルの、
輝かしい未来への旅立ちに遭遇した模様です。」
裾の長い純白のドレスを、それは器用にさばいて花嫁が向かったのは、ホテル前へと横付けされていた黒塗り胴長の特注ロールスロイスで。花婿なのだろ、やはり白いタキシード姿の若々しい青年にあらためて手を取られ。それは初々しくも含羞みながら、楚々とお顔を伏せたのがまた、何と可憐であることかと。大通りの見渡しに居合わせたすべての人々からの、微笑み添わした注目を集めてやまぬ。そんな二人へとレポーターは喜々としてマイクを差し向け、
「いやぁ、おめでとうございます。お綺麗な花嫁さんですねぇ。」
「あ、いやあの……はあ、ありがとうございます。」
緊張した挙式の直後ででもあるものか、麗しい新婦に見とれ、どこかぼんやりしかかっていた新郎が、あわわと背条を延ばした様子が。こちらはあんまりにも朴訥だったのでだろ、か〜わいいという声が挙がって再び周囲がどっと沸き、
「よろしければお名前をお聞かせいただけますか?
この番組も今日から第一歩。
そのめでたい門出に、
やはり結ばれたばかりの初々しいカップルに出会えるなんて、
こんな素晴らしいことはありません。」
今日が初仕事ででもあるものか、他では見たことないお顔のレポーターさんだけれど。なかなかにツボを押さえた話しようが爽やかで、緊張しまくりな花婿さんも嫌がることなく素直に頷くと、聞かれたことを素直に語る。
「神田利一郎と、いいます。こちらは、きゅ……「“ひさこ”だ。」
どこから発したそれなのか、いやに強い語調の声が割り込んで。えっ?と、マイクを間に挟んでのやりとりをしていた男性二人がギョッとし、そのまま見やった先、ついでにカメラマンもそのレンズを振り向けた先に、おいでのお人はというと。すらりとした痩躯をなお引き絞る、シンプルだが だからこそ、スタイルに自信がなければちょっと難しいデザインのドレスを、胸張って着こなしておいでの花嫁で。ベールの下にあったのはけぶるような金髪と、それがティアラに押さえられたことで、ややかぶさっての覆った格好になっている、目許の鋭い紅色の双眸とが何とも印象的な美少女であり。
「……そ、そうですか。ひさこさんと仰せなんですね。」
金髪に白い肌、しかも玻璃玉のような眸をしちゃあいるが、さほどバタ臭いお顔でもないのだし。そうまでベタな和名でも、まま、いけないってことはないだろう。ただまあ、
“久蔵をそうと読ませるのは、なかなかに無理がありますが。”
上半身はぴったりしたデザインだが、足元は余裕のあるウエディングドレスのその中で。それは凛々しくも双脚踏ん張っての、むんと仁王立ちするのはおやめなさいと。苦笑が絶えなかったらしい、ミスターMこと“結婚屋”さんでもあったそうな。
◇◇◇
脱出のためにと用意され、久蔵が着替えさせられた衣装というのは、なんと純白のウエディングドレスだったりし。
「………?」
「もしかして、何で?…って訊いてます?」
だって此処はほら、大きなホテルで、最上階にはチャペルもあるし。披露宴も大広間で催せるっていうご利用プランがあるんですよね?と、外商担当の営業マンのように、愛嬌たっぷりな笑顔で言い足して。隠れようという素振りや変装はネ、相手だってそれっくらい予測していようし、不自然さから却って注意を引きかねないってもんでと続けてから、
「知っているかい?
詐欺師なんかが使う一番簡単な変装術はね、
鼻の頭や頬へ絆創膏を貼ること、なんだよ?」
化粧品もつけ髭も要らない。素顔のまんまでいたとしてもね、人は相手の目の大きさや鼻の形よりもまず、何でこの人、絆創膏なんてってそこばかりに注意が向いて。後から訊かれても、絆創膏の大きさや角度は覚えているが、他の細部は全く思い出せないもんなんだ。
「花嫁衣装の女性が居たって、此処なら特に不思議じゃあないその上に、
不思議じゃあないけど華やかで綺麗には違いないから、
みんなが注目して来るだろう?」
素直にこっくりと頷いた久蔵へ、なおの笑みを深めると。ドレスに続いてこちらも年頃の少女の憧れのアイテム、煌くティアラつきのヴェールを優雅に取り出しながら、
「追っ手から逃げ出した身の上だ、そんな派手な変装をするもんかって。
そういう固定観念があろうから、見ることは見てもそれが君らだとは思わない。」
まだ着替えてもない久蔵の頭へと、愛らしいティアラをそおと載せ、空いた手の人差し指を宙で降ると、こうも付け足す彼だったりし。
「もしかしてと気づいたとしても、あまりに注目されてる存在へ、
乱暴を仕掛けにって格好ではそうそう近寄れはしなかろうしね。」
「あ…。」
ぐるりと取り巻く見物の人々。全員、恐らくはホテルマンまでもが、微笑ましげに見守っているんだろからね。そんな存在へ難癖つけに近寄るなんて、そのまま現行犯で取っ捕まえて下さいって言ってるようなもんだと、自信満々に言ってのけた助っ人のお兄さんであり。そういう策であるのならと ようよう納得し、差し出されたドレスへと着替えるに至った久蔵お嬢様だったのだが。
「…………。」
「え? 何で新郎の分も用意して来たのかって?」
先程の凄まじく手短だった電話では、誰かと一緒に身を隠しているとまでは言ってなかったのに。久蔵の分だけじゃあなく、利一郎青年の着替えも用意されてあったのへ、???と怪訝そうなお顔になったのへは、
「まさかに花嫁だけでうろうろしていては訝しいでしょうが。」
ホテルの内だけならば…お色直しかおトイレか、御用があってのちょこっと抜け出しただけ、今から式場へ向かうところだと誤魔化すことも出来ますが。外へまでとなるとそうも行かない。それでと持って来たタキシードであり、
「こちらのお連れさんがいなけりゃいないで、
何なら私が自分で着て、
挙式を上げたばかりのカップルとやらに 成り済ますことになってました。」
しゃあしゃあと言ってにんまり笑ったダークスーツの彼は、二人がそれぞれに着替えを終えると、それではと彼らに縄ばしごを登るようにと指示を出す。
「天井の上で待っててくださいね。」
操作パネルへと取り付けた小道具を外すべく、後から登ってくるらしい彼を残して。ますます着馴れぬタキシードなんて堅苦しいお衣装に、脇やら背中やら あちこち引っ張られながらもまずはと先に登った利一郎さん。ハッチの上へと顔を出したその途端、鼻先へぬっと手が出て来たのへ、どひゃあっと驚き、危うくハシゴから落ちかかったが、
「あ。彼は私の仲間です。」
床へまで落ち切るすんでのところで、上にいたお人に腕を捕まえられ、下にいたダークスーツの彼からは腰辺りを支えられ、何とか落っこちるのだけは免れられたものの。
「何かしら、アクシデントや思わぬ事態が襲ったらと思いましてね。」
何にも聞かされぬままにやって来たので とりあえず…と。彼らなりの配慮の一環としてはよくあることなのか、それはけろりと仰せだが。急な呼び出しから始まったのだろ、こんな段取りへこうまで周到だなんて、
“…どんなお仕事なさっておいでの方々なんだろ。”
久蔵は“結婚屋”なぞと呼んでいたが、それにしては…ウェディングドレスの登場へ鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてもいた。ということは、ブライダル関係のお人ではないのかな? あ・いや、あれは“こんな場になんで?”という意味で虚を突かれただけだろか。ゲージの天井の上は、当然のことながら、まともな照明も内装もない殺風景な空間で。普通一般の人では、せいぜいパニック映画やアクション映画などで、活劇の舞台に出てくるのを見たことがあるのが関の山。隣りの空隙をするするするっと別のゲージが降りてったのにドッキリしておれば、利一郎青年にはここで待機していたやはりダークスーツの男性が、そして久蔵のほうへは先程からてきぱきと指示を出している男性が、自分の腰回りにまずはと革製のがっしりしたベルトを装着すると、そこから伸びているザイルのように頑丈そうなロープを、ゲージを吊るしている格好のワイヤーロープへと大きな金具で引っかけてつなぐ。何度か強く引き、外れないのを確かめてから、ベルトの外回りに二重に巻かれてあったベルトを解いて、それぞれのフォロー担当へ“ちょっと失礼”とばかり、相手の腰回りへぎゅうと装着させて…準備はOKということか。まずはと、携帯電話のようなツールを結婚屋さんが操作すると、
「…っ☆」
「わっ!」
停まっていたゲージがぐんといきなり動き出し、するするするっと下降してゆく。囲いのないままの下降は、よほど暴れない限り落ちないだろうと判っちゃいても、なかなかにスリリングな体験で。日頃は怖いものなしの久蔵でも、咄嗟ながらすぐ傍らの結婚屋さんの腕へ掴まったほどだったから、神田青年の側は……推して知るべしというところ。幾つか自動ドアの裏側を通過したところで、昇降口のあるフロアとしては最下層、地下1階にあたるところまで降りたゲージだったが、リモコンでの制御のせいだろう、ドアが開く気配はなくて。
「さて。エレベータとしてはここが最下層ですが、この空間はもっと深い。」
落下防止や制御の関係から、ゲージはレール状の鉄柱に左右だったり三方向だったりから挟まれており、決して宙ぶらりんな構造じゃあないが。それとは別な意味合いで、最下層のその下にも、ゆとりというか遊びというか、底に至るまではまだまだ距離を残しており。
「ここの下、底までに降り立って、保守点検用の扉から出ます。」
「…下、って。」
どういう意味ですかと。利一郎青年は心許ない声で、久蔵は無言のままに目顔にて、訊いたその態度の消えぬうち。救助隊の二人は薄闇の中にすっくと立ち上がると、それぞれのベルトからつないでいたフックつきのワイヤーを、吊り下げ担当だった天井のワイヤーからひとまず外し。それから…ゲージの昇降の要である、脇に下げた重りを上下させるメインワイヤーへと引っかけ直す。
“あ……。”
嫌な予感がしたのは久蔵だけで。嫌と言っても“予想外だったなぁ”という程度。
「いいですか? ここで不審を買っては何にもなりません。
これ以上びっくりさせられたら声が出そうだと思うなら、
前以てハンカチでも咥えておいてくれますか?」
そんな言い方をした結婚屋さんの説明聞いて、有無をも言わさず…利一郎青年の口へ、バスデイベアのハンドタオルを突っ込んだのは久蔵だった。というのが、
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!)
罰ゲームっぽいスカイダイビングで、インストラクターさんの体の前面へ、ベルトでしっかとくくられて空へ飛び出す、リアクション芸人の図というのを思い起こしていただくと、一番判りやすいかもしれない。どこの特級レスキューですか、それとも米軍海兵隊所属ですかと訊きたくなるよな見事さで、ワイヤー1本へ体を預け、何もない宙を滑空して飛び降りた彼らだったから。予想のなかった神田氏は気絶しそうなほど怖かったらしいが、だがだが片やの久蔵はというと。薄暗がりの中に白いオーガンジーのドレスをひるがえしながらという、勇ましいんだか華やかなんだか、静かに潜行せよとの行動には到底見えない艶やかさにて。最下層のそのまた下層、ゲージ空間の底へ颯爽と降り立って、楽しかったと言わんばかりの“はあvv”という吐息をこぼし、再び 結婚屋さんを苦笑させた、類を見ない豪傑ぶりだったのだそうですよ。聞いてますか、兵庫さん。(無理を言うな)
◇◇◇
………という、なかなかスリリングにして大胆な方法で、点検用のドアまで辿り着き、追っ手の連中の目にも留まらぬままという重畳さで、ホテルのメインタワーから何とか脱出した彼らだったが。だが、それだけではまだ足りない。脱出に成功したこと、もうホテルのどこにもいないことを、追っ手に気づかせなければ彼らの排除にはつながらぬ。そこでと、やはり結婚屋さんが仕組んだのが、いきなりインタビューという茶番であり。架空の番組のインタビューという格好で、今の今、もうお外にいる神田利一郎氏とそのお見合いの相手ですよという情報を、
「客室エリアのそこかしこへ、勝手ながらモニターを置かせていただき、
そこへ今さっき撮影したやり取りをライブで流させていただきました。」
ケーブルテレビ系の番組を装ってはいたが、実際にはどこのご家庭へも流されちゃいない。唯一、背後のホテルJに据え置いた“テレビ”にだけ、街角訪問番組の素材としてインタビューされた神田氏が映し出された訳であり。
「館内へモニターを設置した面々からの報告で、
あなたがたを追ってたらしき、場にそぐわぬ一団も、
番組に気づくと歯咬みしつつも撤退してったそうですよ。」
暴れられなくて悔しかったからでしょうね、でも、肝心な攻撃目標が居なくなってはね。助っ人として掻き集めたらしい顔触れへ、約束の金を払わんぞとか何とか説き伏せて、とりあえずはと足早に撤退してったらしいそうで。
「恐らくは“次の機会”を狙おうという腹なんでしょうが。」
そんな言い方をし、蝶ネクタイを緩めていた利一郎さんをびくくっと怯えさせたのは。少しほど流した先の公園で待っていたロールスロイスへこっそりと追いついたまま乗り込んで来たミスターMこと結婚屋さんで。
「あなたがたを取っ捕まえようとしたっていう目撃証言は、
お客様からでもホテルマンの皆様からでもいくらでも取れますし。
何でしたら、
ロビーにだけ設置されている防犯カメラの映像を、
届けに添えて提出すればいいと思いますよ?」
「?? 届け?」
何の話だ?と、こちらは純粋にキョトンと小首を傾げた三木さんチの御令嬢へ、
「警察ですよ。届けを出さないおつもりですか?」
うまく脱出出来たからよかったものの、そうでなかったなら…例えば姫様が携帯を持ってなかったら? どれほどの怖い想いをさせられたか、はたまたホテルで暴れられた末にどれほどの損害を出すことになったか知れやしないんですよ? 判ってますか?
「しかも、ホテル相手の案件じゃあない。
そちらの神田さんが目当てという個人攻撃で、
しかもしかも、立派な刑事事件です。
訴訟なんか起こして、ホテルの名前に陰が落ちないかなんてことは、
考えなくたっていいんですよ?」
悪い奴らにはきっちりとお灸を据えてやらないと。ああいう連中はネ、うまく逃げ果(おお)せたことで反省なんてしやしません。むしろラッキーだったなと味をしめ、世間を舐めてかかる困った大人になりかねません。
「警察へ直行しますか?」
再度訊かれた久蔵としては。警察…いや、それよりもと。安堵とともにその胸の内へと浮かんでいた、とあるお顔があったので……。
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*いい加減、結婚屋さんってのが書きにくくなってきました。
とはいえ、彼の正体暴露は もちょっと待ってねvv

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